研究会について
小中学校における喫緊の教育課題や授業づくりなどについて,県下の小中学校の教員の皆様に研究委員として御協力いただき,また大学の研究者に共同研究者として参加していただき,研究討議を重ねて研究成果を学校現場に提言や報告書として提示しています。
また,学校の長期休業中などに県内の小中学校の先生に参加いただき公開研究会・講演会などを開催しています。
教育問題研究会
- 研究のテーマ
『一人ひとりに,豊かで行き届いた教育を
~多種多様な側面から子どもの人権を考える~』
- テーマ設定の理由
「子どもの権利条約」が国連総会で採択され,また日本が批准・発効してから久しい。
しかし,児童虐待,いじめ自殺,貧困など,子どもを巡る問題は後を絶たず,条約の理念が社会に定着しているとはいいがたい状況にあり,学校教育においても人権教育の取組の一層の改善・充実が求められているといえる。これまでの研究を振り返り,もう一度「人権」についての理解を深めていきたい。
近年大きな話題として,次のことがあげられる。急速なグローバル化の進行に伴い,外国につながる子どもの数は年々増加しており,日本語指導が必要な児童生徒数は,ますます増加することが見込まれる現状がある。加えて学校への適応や居場所の確保,言語能力の習得,学力や進路保障,日本語指導教師や支援者の確保など,外国につながる子どもたちの教育をめぐる課題は山積している。
この他にも,未だ絶えることのないいじめや体罰,それに起因する自殺,児童虐待といった問題。男女平等,ジェンダーに関わる問題。LGBTQ,子どもの貧困,ヤングケアラー等々の諸問題も教育の場に大きな課題として存在する。
2023年5月「こども基本法」が施行された。学校現場としては,これを機に今一度「子どもの権利条約」に立ち返るとともに,「こども基本法」「やまなし子ども条例」を学びつつ,現状の子どもの声や教職員の声を聞き,子どもの人権をどのようにして守り,子どもの人権を最大限に尊重しての実践を積み重ねていくのかが課題である。その課題についての解決に向け本研究会を進めていく。
- 研究計画と研究内容
本研究会の研究については2021年度からの継続のテーマで進めてきた。2023年度を最終年度とする。
2021年からの研究内容の流れについては次の通りである。
1年次・2021年度 ○研究テーマの設定,研究計画の確認
2年次・2022年度 ○共同研究者による講演・学習会
演題「子どもの権利と子どもの権利教育」について考える
共同研究者 山梨学院大学
名誉教授 荒牧 重人 先生
○各学校の現状及び課題の把握
研究員へのアンケート調査の実施と集計
3年次・2023年度 ○前年度のアンケートの概要報告
○実践例の紹介と事例研究
○研究のまとめ
(4)本年度の研究
2023年度については2回の研究会を行った。
第1回研究会(8月22日開催)では,全年度に研究員からいただいたアンケート結果の概要を報告に加え,すでに実践されている事例についての意見交換を行った。
第2回の研究会(1月30日開催)では,事務局より本年度開催された第34回日教組関東ブロック「カリキュラム編成講座」での記念講演の内容の紹介とともに,研究員から提出された実践事例の報告とそれらに関わる意見を交換した。大まかな概要は次の通りである。
<第34回日教組関ブロ「カリキュラム編成講座」記念講演より(事務局)>
2023年8月群馬県において上記の編成講座が開催された。その記念講演において,日本大学文理学部教授であられる末富 芳(すえとみ かおり)様が講師として「こども基本法・子どもの権利から実現する子どもの最善の利益」テーマとしてお話された。
末富さんは,まず講演の冒頭,「こども基本法」がなぜ必要なのかの問いに対して「日本の子どもが幸せではないからだ。」と明言された。その後,データ等を示しつつその根拠を明らかにした。では,どうすれば日本の子ども若者は幸せだと感じ成長することができるのかについて「子どもが権利を学ぶと(わがまま)になると思いこむ教員・政治家・大人の存在」が大きな壁になっているとも指摘しつつ,次のような方策を示された。
○意見表明権・参画する権利の実現
理屈ではなく経験として子どもが「子どもの権利」を学んでいく。例えば,校則の
見直しや学校行事などの諸活動において積極的に子ども意見を取り入れ,子ども同士の対話を通して結論や方向性を決定していく。この経験により子ども自身が達成感を感受していく。また「学校が好きだ」「先生が生徒の意見を聞いてくれる」「先生が生徒のことを大切に思ってくれている」という思いと合わせ,「子どもの権利」の良さについて気づき,学ぶことに繋がる。
○教職員が「子どもの権利」「こども基本法」を学ぶ。
「子どもの権利・こども基本法」について,『学ばないデメリット』と『学ぶメリット』も指摘している。このことを教職員も理解したい。
学ばないデメリット |
学ぶメリット |
・不適切指導の処分リスク ・児童生徒の学校・教師信頼度の低下,低い自己肯定感,低い幸福度 ・保護者の学校・教師信頼度の低下 ・不登校・いじめ(生徒間犯罪)への対応力の低下 ・チーム学校での対応力の低下 ・「教員まんなか」学校マネジメント (児童生徒・保護者への愚痴・誹謗中傷の飛び交う職員室) ・昭和の一斉授業指導 等 |
・適切な指導 ・児童生徒との信頼関係の構築,自己肯定感の向上,幸福度の向上 ・保護者との信頼関係の構築 ・不登校・いじめへの適切な対応 ・チーム学校での対応力の向上 ・「こどもまんなか」学校マネジメント (子どもが主語に・児童生徒もリーダーシップを発揮) ・令和の個別最適・協同的な学び 等
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○「民主主義のルール」を守る。
①ルールは,ほんとうは,なるべく少ないほうがいい(個人の自由が,まず大切)。
②「意見の表明」と「意見の尊重」はセット(自分の権利も,誰かの権利も「おたがい」を大切にする)。
③ルールを決めないといけないときは,多数決だけにたよらず「みんな幸せ」になる決め方をする(子どものいちばんいい幸せ(最善の利益),公共の福祉(みんなの幸せ))。
④いまあるルールは,なくしたり,もとにもどしたり,次のより良いルールにもできる(民主主義)。
おとなも子どもも「幸せ」な学校づくり→「民主主義の担い手」を
○ 意見表明と参画で「幸せ」な学校づくりの成功体験を
○ 「こどもまんなか」学校マネジメント
<研究員からの実践報告>
引き続き,7名の研究委員から次のような実践報告をいただいた。
実践1)「子どもの貧困・ヤングケアラー」(禾生第一小 山口 夏季 先生)
実践2)「校則についての取り組み」(都留一中 小林 康典 先生)
実践3)「子どもの意見尊重」「差別の禁止」の実践(富士見台中 京島 健一先生)
実践4)「児童会活動からの実践」(上野原小 清水 美季 先生)
実践5)「体育・特別活動からの実践」(芦安小 河野 太郎 先生)
実践6)「デートDVワークショップ」(市川南中 小林 裕季 先生)
実践7)「人権教育の視点からの報告」(双葉中 小野 一毅 先生)
上記の7本の実践報告を受けて意見交換を行い,最後に共同研究者の先生から総括コメントをいただいた。
<共同研究者 山梨学院大学名誉教授 荒牧 重人 先生から>
子どもは社会の中の一員であることを大人がより理解することが求められる。「わがまま」の本質を精査し,その中に子どもの願いや希望が包含されていることも考えられる。子どもの権利やこども基本法に基づいた社会を構築していくためには,学校だけではなく行政・教育関係機関の支援体制の充実はもとより社会が一丸となっても推進することが求められる。子どもと日々接する教職員については,その働き方にも着目しつつ総合的な取組が求められる。実践事例をもとに交流し合うことは今後も大切にしてほしい。
カリキュラム・授業研究会
公開研究会
日時 2023年8月4日(金) 午後1時30分から3時40分
*Web会議システムによる開催
主催 山梨県教育研究所
共催 山梨県公立小中学校長会 山梨県公立小中学校教頭会 山梨県教職員組合
山梨県退職教職員協議会 山梨県PTA協議会
内容 ・テーマ 「一人ひとりに豊かな教育を実現するために」
・講 演 「ゆたかな学び」としてのインクルーシブ教育
講師:早稲田大学教授 教育総研所長 菊地栄治 先生
・意見交換 金子豊樹(石和北小校長) 田中一弘(須玉中教頭)
中澤祐輔(朝日小教諭) 保坂雄祐(増穂中教諭)
参加者数 約262名(県下小中学校 県教委 地教委関係者など)
昨年度,感染症対策としてWebによる開催としたが,本年度は,より多くの先生方に視聴していただくためにWebによる開催とした。演題を「ゆたかな学び」としてのインクルーシブ教育として 講師に早稲田大学教授,教育総研所長 菊地栄治先生を迎え,有意義な時間を過ごすことができた。菊地先生の講演後,各会の代表者に参加していただき意見交換を行った。菊地先生からは,あのような意見交換の場が設定されていたことで,講演の内容をさらに深めることができたというお言葉をいただくことができた。
参加者のほとんどが「大変参考になった」「参考になった」)という実施後のアンケート結果から好評価を得ることができた。ここでは,菊地先生が講演で使用されたスライド資料を掲載し,また研究会後に参加者から寄せられたアンケート結果のいくつかを紹介し,公開研究会の報告としたい。
参加者 262名 校長26名 教頭43名 主幹・教諭190名 その他3名
講演内容の評価 大変満足 51% 満足 48% やや不満 1% 不満 0%
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講演資料 Click