研究会について
小中学校における喫緊の教育課題や授業づくりなどについて,県下の小中学校の教員の皆様に研究委員として御協力いただき,また大学の研究者に共同研究者として参加していただき,研究討議を重ねて研究成果を学校現場に提言や報告書として提示しています。
また,学校の長期休業中などに県内の小中学校の先生に参加いただき公開研究会・講演会などを開催しています。
カリキュラム・授業研究会
- 本年度の研究のテーマ
「子どもたちの深い学びを実現するための授業づくりを目指して
~子どもたちが自ら課題意識を持てるようにするために~」
2,テーマ設定の理由
平成29年7月に現行学習指導要領が告示された。しかしながら,本格的な実践に取りかかった矢先に、新型コロナ感染症による全国一斉休校という前代未聞の措置がとられる事態となった。休校措置が終了した後も、感染症流行の波が襲う度に学級、学年、学校の閉鎖が繰り返され、感染症対策を基盤とする学校運営が最優先される状況となった。令和2年度以降においても、学習指導要領の趣旨に基づく実践は、「三密を避ける」など多くの制約のもとでの授業づくりであり、十分な実践的深化がなされたとはいえない状況が続いてきた。令和5年5月、新型コロナ感染症が感染症法上の位置づけが変更となり、ようやく学校に従前と同じ教育活動の実施が可能となる環境が戻ってきたが、現行学習指導要領の中心的課題である「主体的・対話的で深い学びの実現」については、感染症予防対策、不登校対策、ICT環境整備対応などに追われ、実質的な授業づくりが停滞する状況が続いた。
一方,コロナ禍によって推進が前倒しにされた「GIGAスクール構想」では、一人一台端末の導入、クラウド型ネットワーク構築による学校の情報化推進が図られた。本県においても、市町村によって、まだ差があるものの、学校教育のデジタル環境整備は着実に進んでいる。従来では困難であった、過去の学習記録を生かしたり、空間を超えて交流をしたりする活動などが可能となり、新たな教育指導の可能性が大きく飛躍しつつあるといえる。
しかし、その一方で、「ソフトウェアやデジタル機器の機能をいかに教育指導に取り入れたか」が教育実践の重要点であるかのような言説があふれてきている状況であることも事実である。コロナ禍が終息を迎え、デジタル環境基盤も整いつつある現在、教員は、自身の授業におけるデジタル機器やソフトウェアとの向き合い方について、改めてここできちんと整理しておく必要がある。
言うまでもなく、授業づくりの基盤は、子どもの理解であり、子どもの学びの実態に基づき、必要な改善を図る必要がある。学習指導要領、中教審答申で示されている授業改善の柱である「主体的、対話的で深い学びの実現」「個別最適な学びと協働的な学びの対応」の促進や「子どもが自分自身の学びをモニターし、学び方を自分で調整する『単線型から複線型への転換』」など、授業構造自体を見直していくものである。むろん、そのためにはICT環境を十分に利活用することが必要となるのだが、それはあくまでこれらの授業改善の取組を前提としたものであるべきである。
折しも、令和3年1月、中教審は「令和の日本型学校教育」の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現~(答申)を出し、社会が急激に変化する「予測困難な時代」であっても、答えのない問いにどう立ち向かうのかが問われている、とし、目の前の事象から解決すべき課題を見いだし,主体的に考え,多様な立場の者が協働的に議論し,納得解を生み出すことができる、資質・能力を育成すべきだとしている。また、それらを、実現するためには「令和の日本型教育」の構築が必要であるとし、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の充実が求められている。
これらの状況は、令和5年度実践研究会において、山梨大学清水教授が「学校現場におけるICT環境は加速度的に充実してきている。ICT機器はあくまでもツール。これを活用することによって『個別最適な学び』『協働的な学び』を通して『深い学び』に向けた学習活動の時間が確保される。今後も引き続き,研究実践を蓄積していくこと求められる。」とされていることとも通じている。
さて、本研究所における研究は、これまでも一貫して、教育における子どもの学びの在り方を追求するテーマを設定している。2017~2019年は、「子どもの主体的な学び」を、2020~2023年は、「子どもの深い学び」を実現することを目指してきた。
以上の経緯を踏まえ、2024~2026年の3年間においては、「子どもたちの深い学び」の実現のための授業づくりとして、子どもの深い学びの実現を目指すことを主眼としつつ、そのために必要な取組の方向性として、「子どもたちが自ら課題意識を持てる」ようにすることを副題として、研究を進めることとした。
3,研究の方針
以下の要素に基づいて授業づくりを行う
(1)子どもを引きつける魅力があり、主体性を引き出すとともに、子どもの資質・能力の向上に繋がる、よい「課題」を設定する。(子どもが、学級全体のめあて(目標)と自分自身のめあて(目標)の両方を持ち、随時振り返ることができるようにする)
- 学習計画を立て、自身の学びの状況を記録(振り返り)するとともに、学びの状
況をモニターして自己調整する、個別最適な学び方ができる学習過程を開発する。
- 協働的な学びを経て、他者の考えや感想と出会い、それによって、新たな情報や
理解を得て自身の課題解決に繋げていく力を付けるため、授業の中に、交流や協働す
る学習過程を設定する。
- GIGAスクール構想で、設置されたICT技術を活用し、効果的な学びの姿に
近づける。上記の①~③の3要素が効果的に実現するような活用をめざし、具体的方 法を報告書に記述し紹介する。
4,3年間を見越した研究計画
1年目(2024年度)
○研究テーマの設定及びコロナ禍における授業実践の報告
○授業づくりに向けた課題の洗い出し
2年目(2025年度)
○課題解決に向けて授業実践による検証
3年目(2026年度)
○3年間の研究のまとめ
5,本年度の研究
3年間の研究の初年度にあたる2024年度については、3回の研究会を開催した。
第1回研究会(6月25日開催)では,組織作りに加え,今後3年間にわたる研究テーマ及び研究計画(上述の通り)を決定した。
第2回研究会(11月28日開催)では,授業実践の報告と交流を中心に実施した。「GIGAスクール構想」に基づく教育環境が整いつつある過程のなかで取り組まれた実践の掘り起こしを目的とし,次のような3つの観点,
(1)「子どもたちが自ら課題意識を持てる」ための工夫(副主題との関わり)
(2)学びの振り返り・履歴をどう生かしているか
(3)協働的な学びの場面の設定やその姿
に触れながら報告をいただいた。実質的な検討については次回への課題とした。
第3回研究会(2月6日実施)では,第2回研究会での実践報告をもとに前述した3
つの観点に関わり,グループ討議を通して,研究テーマに迫るための課題等の深化を図
った。討議で出された意見については次の通りである。
(1)「子どもたちが自ら課題意識を持てる」ための工夫
○苦手意識を持つ児童に対して「やってみよう」と思えるようなICTの活用、ただしICT
だからやる気がでるといった表面的なものでなく導入の工夫の手段として。
○一人一人の子どもが持つ問いを大切にしながら,「単元を貫く問い」に繋ぎ,共通の課
題になっていくことで自分事として意識化できるのではないか。
○通常級・支援級にかかわらず本物を扱ったり、実体験したりすることで課題意識が持てるのではないか。またそのことによって理解も深まっていくにちがいない。
○時事的な内容を扱うことによって学びへの必要感へと繋がるのではないか。
○子どもたちの対話を通して課題意識を共有化し意欲へと繋げたい。
○小さな「問い」の繰り返しによる課題意識の持続を促す。
○「何をしたいのか」を共有化させ自分事として意識化させたい。
(2)学びの振り返り・履歴をどう生かしているか
○ICT機器の活用を通して,保存・見返し・振り返りなど容易になる(子どもの教員も)。
○板書を写真に残すことで,1時間の振り返りや次時の導入のみならず,学習の継続発展
に活かすことができる。
○単元の初めと終わりに同じ「問い」を投げかけることで変化・成長を把握する。
○理科の実験動画や体育での体の動きなどを映像に残すことで次の学びへと繋げる。
(3)協働的な学びの場面の設定やその姿
○ICTの活用により全員の記録が共有可能となり,協働的な学びへと繋がる。個と全
体を繋ぐツールとして有効である。
○意見発表が苦手な友達の考えも記録として提示できる。
○良好な人間関係づくりこそ「協働的な学び」の基本となる。
○子ども同士の教え合い・学び合いの空間づくりが重要。
○「やってみたい」「解決したい」という共通の課題を持たせることにより協働的な
学びへと繋がっていく。
6,次年度の研究に向けて
次年度(2025年度)については,本年度の3回目の討議内容から実践研究に向けた柱立てを進め,授業づくりを中心に実質的な実践研究を進めていく予定である。新たな研究員とともに研究を進めていきたい。
公開研究会
1 共催 山梨県公立小中学校長会 山梨県公立小中学校教頭会
山梨県教職員組合 山梨県PTA協議会 山梨県退職教職員協議会
2 日時 2025年8月5日(火)午後1時15分 ログイン受付
午後1時30分 開会
3 内容 公開研究会テーマ
「一人ひとりにゆたかな教育を実現するために」
○講 演 講師 大森 直樹 先生
東京学芸大学 現職教員支援センター機構,教授
演題 学習指導要領改訂と子どもたち
カリキュラム・オーバーロードを手掛かりに
○意見交換 萩原喜成(城南中校長) 宮澤直司(禾生第二小教頭)
若月敬二郎(後屋敷小教諭) 古屋達之(韮崎西中教諭)
参加者数 約268名(県下小中学校 県教委 地教委関係者など)